送信回路 超音波の送信回路には555というタイマー用のICを2つ使用しています。 555のICを使用した発振回路の動作については「555発振器」を参照して下さい。 IC1は超音波パルスの送出時間を制御するための発振回路です。 発振パルスの時間は以下の式で求めることができます。実際には部品のバラツキの影響で計算通りにはなりませんが、目安として計算すると以下のようになります。 条件:RA =9.1MΩ、RB=150KΩ、C=0.01μF
IC2は40KHzの超音波周波数を発振させる回路です。 発振の動作はIC1と同様で約40KHzの周波数で発振させます。発振波形のデューティ(ON、OFFの比率)を50%に近づけるためにRB>RAとしています。 超音波の周波数は使用する超音波センサーの共振周波数に合わせる必要があります。そのため、RBを可変抵抗器(VR1)にして発振周波数を調整できるようにしています。(キットではRAの固定抵抗の値をカットアンドトライで変更して最適な値にするようにしています。) IC2のリセット端子にはIC1の出力がインバータを介して接続されています。リセット端子がHレベルのときにIC2は発振動作をするので、40KHzの超音波は1ミリ秒送出され、62ミリ秒休止するという動作をします。 周波数を計算すると以下のようになります。 条件:RA =1.5KΩ、RB=15KΩ、C=1000pF
インバータを使用して超音波センサーのドライブを行っています。2つのインバータを並列に接続して出力電力に余裕を持たせています。 センサーのプラス端子とマイナス端子に加える電圧の位相は180度ずらしてあります。また、コンデンサにより直流カットをしているので、センサーにはインバータ出力の約2倍の電圧が加わることになり、センサーからの超音波出力を高めています。 受信回路 受信用センサーで受けた超音波信号はオペアンプ増幅器を2段使用して1000倍(60dB)の電圧に増幅されます。1段目で100倍(40dB)、2段目で10倍(20dB)の増幅をしています。 dB(デシベル)については「対数表」を参照して下さい。 オペアンプは通常プラスとマイナスの2電源を使用しますが、今回の回路では+9Vの単電源で動作をさせています。そのため、オペアンプのプラス入力に電源電圧の半分(4.5V)の電圧をバイアス電圧として加え、増幅する交流信号の中心電圧を4.5Vにしています。オペアンプを負帰還で使用した場合、プラス入力端子の電圧とマイナス入力端子の電圧がほぼ等しくなります。ですから、このバイアス電圧により、交流信号のプラス側とマイナス側を均等に増幅することができます。このバイアス電圧を加えないと交流信号に歪みが生じます。この方法は2電源用のオペアンプを単電源で動作させ、交流信号の増幅をする場合に採られる方法です。 オペアンプの動作については「三角波発振器 動作説明」を参照して下さい。 受信した超音波信号を検出するために検波を行います。ショットキー・バリア・ダイオードを使用した半波整流回路です。ダイオードの後のコンデンサで平滑することにより、検出信号の信号レベルに沿った直流電圧を得ることができます。ショットキー・バリア・ダイオードを使用するのは高周波特性が良いからです。 ショットキー・バリア・ダイオードについては「ダイオード」を参照して下さい。 測定対象物で跳ね返ってきた超音波の検出を行う回路です。先の検波回路の出力を電圧比較器(コンパレータ)で検出します。今回の回路では電圧比較器の代わりに単電源のオペアンプを使用しています。オペアンプはプラス入力とマイナス入力の差を増幅して出力します。 通常オペアンプは負帰還をかけて使用しますが、負帰還をさせない場合、少しの入力電圧の差でも出力は飽和状態になります。オペアンプの増幅率は種類にもよりますが数万倍の増幅率があります。ですから、プラス入力がマイナス入力より少しでも高くなると、その差は数万倍で増幅され出力はほとんど電源電圧と同じ位になります。(飽和状態です)逆に、プラス入力がマイナス入力より少しでも低くなると、その差は数万倍で増幅され出力はほとんど0Vになります。(OFF状態です)この動作は電圧比較器の動作そのものです。ただ、基本的に電圧比較器とオペアンプは内部の回路が違うので、電圧比較器をオペアンプに使うことはできません。 今回の回路では検波回路の出力を信号検出回路のマイナス入力に接続し、プラス入力の電圧は一定にしています。
この回路にはもう一つ工夫があります。プラス入力側に接続しているダイオード(D)です。 このダイオードには送信回路のパルス送出タイミング信号が加えられます。ですから、送信機から超音波信号を送出するときに信号検出回路のプラス入力の電圧をパルス送出タイミング信号で上昇させて受信センサーに回り込んだ送信信号を検出しないようにしています。 送信信号は送信タイミングパルスを止めても若干残留信号があります。ですから、送信タイミングパルスの立ち下がりをコンデンサ(C)で緩やかにし、残留信号による誤検出を防止しています。 このコンデンサの値は測定器の性能を決める一つのポイントになります。このコンデンサの値が大きいと検出開始時間が遅くなり、短距離の測定ができなくなります。今回の測定器は約10mの距離まで測定可能なように送信パルスを長め(約1ミリ秒)にし、検出回路のコンデンサも大きめにしています。そのため、最短測定距離は約40cmになっています。 短い距離を測定するためにはIC1でのTLを短くし、信号検出回路のコンデンサの値を小さくする必要があります。ちなみに20℃で30cmの距離を超音波が往復する時間は1.75ミリ秒です。 超音波を送出してから測定対象物で反射して帰ってくるまでの時間を測定するためのゲート回路です。SR(セット・リセット)フリップフロップを使用しています。SR−FFの詳細は「Dタイプ フリップ・フロップの動作」を参照して下さい。 セット条件は送信回路で超音波を出し始める時間です。送信タイミングパルスを使用します。 リセット条件は受信回路の信号検出回路で信号を検出し始めた時間です。 すなわち、SR−FFの出力(D)がON状態になっている時間が超音波を出してから反射して帰ってくるまでの時間になります。 超音波の伝搬時間を計測するためのパルスを作る発振器です。CMOSインバータを使用した発振回路です。 発振周波数は以下の式で計算できます。
f = 1 / ( 2.2 x C x R )
この発振器の動作については「矩形波発振器 (2)」を参照して下さい。 今回の発振周波数は約17.2KHzです。これは20℃での音波の伝搬速度が343.5m/秒なので片道の時間から割り出しています。温度変化による音波の伝搬速度の違いは「空中での音波伝搬速度」を参照して下さい。 例えば、1mの距離の場合、音波が往復にかかる時間は 2m/343.5m/sec = 5.82msecです。このとき、表示器には1.00と表示させたいので、この時間で100パルスを発生させる周波数が計測パルスの周波数になります。 f = 100/(5.82 x 10-3) = 17.18 x 103 = 17.18KHzとなります。 コンデンサ(C)を2200pFとすると抵抗器(R)の値は以下のようになります。
温度により音波の伝搬速度が変わりますので、その調整には1KΩの可変抵抗器を使います。これはケースに取り付け容易に調整できるようにしています。1KΩの可変抵抗器で変化する周波数は以下のようになります。
音波の伝搬速度に換算すると359.4m/秒で約46.5℃のときの伝搬速度になります。
音波の伝搬速度に換算すると330.6m/秒で約−1.5℃のときの伝搬速度になります。 この回路では後述する計測カウンター(4553)で使用するカウンタ・クリア・パルスおよび表示のラッチ(保持)をクリアするパルスを作ります。これらのパスルは時間計測ゲート回路の出力を微分して作っています。 超音波を出し始めた時点でA点がLレベルからHレベルに変化します。この変化によりコンデンサC1に電荷が溜まりはじめ、C1とR1により微分された信号がインバータ(I1)に加わり、I2の出力(B点)にはカウンタ・クリア・パルスが現れます。このときC2では蓄えられた電荷が放電しますが、D2を通して流れるためI3の入力はHレベルのままで、I4の出力(C点)は変化しません。 次に超音波が受信センサーに到達するとA点はHレベルからLレベルに変化します。この変化によりコンデンサC2に電荷が溜まりはじめ、C2とR2により微分された信号がインバータ(I3)に加わり、I4の出力(C点)にはラッチ・クリア・パルスが現れます。このときC1では蓄えられた電荷が放電しますが、D1を通して流れるためI1の入力はLレベルのままで、I2の出力(B点)は変化しません。 I1からI4のインバータは微分回路の出力波形を整形するために入れられています。 超音波の伝搬時間を計測するために3桁のBCDカウンターIC(4553)を使用しています。内部のブロックダイアグラムは左図のようになっています。 マスタ・リセット(MR)がHレベルになるとカウンタのリセットおよび表示スキャンの初期化が行われます。今回の回路ではカウンタ・クリア・パルスをMRに加え、計測開始時にカウンタをクリアしています。表示がクリアされるわけではありません。内部のカウンタがクリアされるだけです。 クロック(CLOCK)には計測パルスを加えます。カウントアップはパルスの立ち下がりで行われます。計測パルス発振器の出力はNANDゲートにより時間測定ゲート回路の出力がHレベルのときだけクロック端子に入力されるようにしています。 ラッチ・イネーブル(LE)がLレベルになるとBCDカウンタの内容がラッチレジスタに取り込まれます。LEがHレベルでは取り込まれた内容が保持(ラッチ)されます。ですから、LEがHレベルの状態ではBCDカウンタの内容が変化しても表示される内容は変化しません。計測終了時の内容をラッチレジスタに取り込んだ後、次の計測終了時点まで表示は変化しません。今回の場合、計測インターバルを約63ミリ秒周期で行っていますので、1秒間に約16回表示が変化することになります。 計測した3桁の数字はマルチプレクサにより一桁づつ出力されます。表示する桁の制御はスキャン発振器により制御されます。スキャン発振器の周波数はコンデンサCtの値により決まります。この周波数は電源電圧により変化し、以下の式で計算できます。
一桁づつ順番に表示することにより同時には一桁だけのLEDしか表示していないので省電力になります。LEDに高輝度LEDを使用しているので明るさも問題ありません。 7セグメントのLEDを3つ使用して測定結果を表示します。 表示の制御はBCDカウンタの表示制御機能により行います。表示の制御はLEDのカソード側で行い、3桁の表示は1位から順番に一つずつ行います。そのため、LEDはカソードコモンタイプを使う必要があります。また、制御するトランジスタはPNPタイプのものを使う必要があります。 4511はBCDコードを7セグメントLEDの制御コードに変換するデコーダです。 左図は8.76という表示を表示している例です。分かり易くするために約1秒毎に切り替わるように表示していますが、実際の回路では約1100Hzのスキャン周期で切り替えていますので同時に表示しているように見えます。 電源回路 今回の回路では各種の発振器を使用しています。それらの発振器の周波数が計測精度に関係します。使用する電源は安定している必要があります。回路はCMOSを使用した回路ですので、電源として+5Vでなくてもかまいません。内部電源電圧は3端子レギュレータで+9Vにしています。 レギュレータの出力を安定させるためには入力電圧を出力より約3V高くする必要があります。また、最大電圧は約+30Vですので外部からは+12V〜+30Vの電源を供給することになります。 消費電流は約70mAです。 空中での音波伝搬速度 空中を音波が伝搬する速度は温度により違ってきます。ですから、より正確に距離を測定するためには温度に合わせて補正をする必要があります。 音波の伝搬する速度は以下の式で計算できます。
v = 331.5 + 0.6 * t [ m/sec ] t :温度 (℃) 各温度での音速は以下のようになります。
|