目次事例集超音波警報機(1)検出ユニット(1)


超音波検出ユニット (1) 回路説明


超音波の送信回路、受信回路は超音波距離計測器と同じです。

超音波パルス発振器


IC1は超音波パルスの送出時間を制御するための発振回路です。

回路は超音波距離測定器と同じですが、抵抗器とコンデンサの値を変更しています。発振周波数は同じです。

発振パルスの時間は以下の式で求めることができます。実際には部品のバラツキの影響で計算通りにはなりませんが、目安として計算すると以下のようになります。

条件:RA =1MΩ、RB=15KΩ、C=0.1μF

TL= 0.69 x RB x C

= 0.69 x 15 x 103 x 0.1 x 10-6

= 1 x 10-3

= 1 msec

TH = 0.69 x ( RA + RB ) x C

= 0.69 x 1015 x 103 x 0.1 x 10-6

= 70.0 x 10-3

= 70 msec



超音波発振器



IC2は40KHzの超音波周波数を発振させる回路です。
発振の動作はIC1と同様で約40KHzの周波数で発振させます。発振波形のデューティ(ON、OFFの比率)を50%に近づけるためにRB>RAとしています。

超音波の周波数は使用する超音波センサーの共振周波数に合わせる必要があります。そのため、RBを可変抵抗器(VR1)にして発振周波数を調整できるようにしています。
IC2のリセット端子にはIC1の出力がインバータを介して接続されています。リセット端子がHレベルのときにIC2は発振動作をするので、40KHzの超音波は1ミリ秒送出され、62ミリ秒休止するという動作をします。

周波数を計算すると以下のようになります。
条件:RA =1.5KΩ、RB=15KΩ、C=1000pF

TL= 0.69 x RB x C

= 0.69 x 15 x 103 x 1000 x 10-12

= 10.35 x 10-6

= 10μsec

TH = 0.69 x ( RA + RB ) x C

= 0.69 x 16.5 x 103 x 1000 x 10-12

= 11.39 x 10-6

= 11μsec

f= 1 / ( TL + TH )

= 1 / (( 10.35 + 11.39 ) x 10-6)

= 46.0 x 103

= 46.0 KHz



超音波センサー・ドライブ回路


インバータを使用して超音波センサーのドライブを行っています。2つのインバータを並列に接続して出力電力に余裕を持たせています。
センサーのプラス端子とマイナス端子に加える電圧の位相は180度ずらしてあります。また、コンデンサにより直流カットをしているので、センサーにはインバータ出力の約2倍の電圧が加わることになり、センサーからの超音波出力を高めています。



信号増幅回路


受信用センサーで受けた超音波信号はオペアンプ増幅器を2段使用して1000倍(60dB)の電圧に増幅されます。1段目で100倍(40dB)、2段目で10倍(20dB)の増幅をしています。
dB(デシベル)については「対数表」を参照して下さい。
オペアンプは通常プラスとマイナスの2電源を使用しますが、今回の回路では+9Vの単電源で動作をさせています。そのため、オペアンプのプラス入力に電源電圧の半分(4.5V)の電圧をバイアス電圧として加え、増幅する交流信号の中心電圧を4.5Vにしています。オペアンプを負帰還で使用した場合、プラス入力端子の電圧とマイナス入力端子の電圧がほぼ等しくなります。ですから、このバイアス電圧により、交流信号のプラス側とマイナス側を均等に増幅することができます。このバイアス電圧を加えないと交流信号に歪みが生じます。この方法は2電源用のオペアンプを単電源で動作させ、交流信号の増幅をする場合に採られる方法です。
オペアンプの動作については「三角波発振器 動作説明」を参照して下さい。



検波回路


受信した超音波信号を検出するために検波を行います。ショットキー・バリア・ダイオードを使用した半波整流回路です。ダイオードの後のコンデンサで平滑することにより、検出信号の信号レベルに沿った直流電圧を得ることができます。ショットキー・バリア・ダイオードを使用するのは高周波特性が良いからです。
ショットキー・バリア・ダイオードについては「ダイオード」を参照して下さい。



信号検出回路


警報対象物で跳ね返ってきた超音波の検出を行う回路です。先の検波回路の出力を電圧比較器(コンパレータ)で検出します。今回の回路では電圧比較器の代わりに単電源のオペアンプを使用しています。オペアンプはプラス入力とマイナス入力の差を増幅して出力します。
通常オペアンプは負帰還をかけて使用しますが、負帰還をさせない場合、少しの入力電圧の差でも出力は飽和状態になります。オペアンプの増幅率は種類にもよりますが数万倍の増幅率があります。ですから、プラス入力がマイナス入力より少しでも高くなると、その差は数万倍で増幅され出力はほとんど電源電圧と同じ位になります。(飽和状態です)逆に、プラス入力がマイナス入力より少しでも低くなると、その差は数万倍で増幅され出力はほとんど0Vになります。(OFF状態です)この動作は電圧比較器の動作そのものです。ただ、基本的に電圧比較器とオペアンプは内部の回路が違うので、電圧比較器をオペアンプに使うことはできません。
今回の回路では検波回路の出力を信号検出回路のマイナス入力に接続し、プラス入力の電圧は一定にしています。
Vrf= ( Rb x Vcc )/( Ra + Rb )

= ( 47 x 9V )/( 1 + 47 )

= 0.4V

ですから、整流した超音波信号が0.4V以上になると信号検出回路の出力はLレベル(ほぼ0V)になります。

この回路にはもう一つ工夫があります。プラス入力側に接続しているダイオード(D)です。
このダイオードには送信回路のパルス送出タイミング信号が加えられます。ですから、送信機から超音波信号を送出するときに信号検出回路のプラス入力の電圧をパルス送出タイミング信号で上昇させて受信センサーに回り込んだ送信信号を検出しないようにしています。
送信信号は送信タイミングパルスを止めても若干残留信号があります。ですから、送信タイミングパルスの立ち下がりをコンデンサ(C)で緩やかにし、残留信号による誤検出を防止しています。
このコンデンサの値は測定器の性能を決める一つのポイントになります。このコンデンサの値が大きいと検出開始時間が遅くなり、短距離の検出ができなくなります。今回の検出器は約10mの距離まで検出可能なように送信パルスを長め(約1ミリ秒)にし、検出回路のコンデンサも大きめにしています。そのため、最短検出距離は約40cmになっています。
短い距離を検出するためにはIC1でのTを短くし、信号検出回路のコンデンサの値を小さくする必要があります。ちなみに20℃で30cmの距離を超音波が往復する時間は1.75ミリ秒です。



時間測定ゲート回路



超音波を送出してから対象物で反射して帰ってくるまでの時間を測定するためのゲート回路です。SR(セット・リセット)フリップフロップを使用しています。SR−FFの詳細は「Dタイプ フリップ・フロップの動作」を参照して下さい。
セット条件は送信回路で超音波を出し始める時間です。送信タイミングパルスを使用します。
リセット条件は受信回路の信号検出回路で信号を検出し始めた時間です。
すなわち、SR−FFの出力(D)がON状態になっている時間が超音波を出してから反射して帰ってくるまでの時間になります。



警報検出回路



この回路は受信信号が設定した時間以内であれば有効とし、設定した時間以上の場合には無効とする回路です。
555のタイマー回路を使用して時間を設定しています。
タイマーのトリガには送信タイミングパルスを使用しています。555タイマーは入力トリガがLレベルになると動作を開始するので、送信タイミングパルスはインバータ(2入力NANDを使用)を通して入力しています。
タイマーの出力(点)がHレベルの状態で時間計測ゲート回路の出力(点)がHレベルになれば警報出力(点)はLレベルになります。タイマーがタイムアウトするとタイマーの出力(点)はLレベルになるので、その後は時間計測ゲート回路の出力(点)がHレベルになっても警報出力(点)はHレベルのままです。
送信タイミングパルスが入力されるとき、点がLレベルになる前に点がHレベルになると、警報出力(点)に誤ったパルスが出力されますが、実際には点がLレベルになるほうがタイマーの動作開始より早いので、特に遅延回路は入れていません。

警報の範囲は約40cmから10mとしました。最小距離は送信パルス誤検出ガード回路により制限されます。
最大距離は超音波の送信レベルと受信感度、送信パルスの送信間隔により制限されます。
    40cmの距離を音波が往復する時間
      周囲温度が20℃の場合、音波の伝搬速度は343.5m/秒です。
      往復ですから80cmの距離を伝搬する時間は以下のようになります。
      TS = 0.8/343.5

      = 0.00233

      = 2.33ミリ秒

    10mの距離を音波が往復する時間
      往復ですから20mの距離を伝搬する時間は以下のようになります。
      TL = 20/343.5

      = 0.05822

      = 58.2ミリ秒



警報検出タイマーの時間は可変抵抗器で変えられるようにしています。
最小時間と最大時間は以下のように計算することができます。

    555タイマーの時間 = 1.1CR
      (C=F、R=Ω)

すなわち、R = T/1.1C になります。
今回の回路ではコンデンサは1μFを使用しました。

    最小時間を得るための抵抗値(可変抵抗器=0Ω)
      RS = (2.33 x 10-3) / (1.1 x 10-6)

      = 2.12 x 103

      = 2.12 KΩ

      実際の回路では2KΩを使用しました。

    最大時間を得るための抵抗値(可変抵抗器=最大)
      RL = (58.2 x 10-3) / (1.1 x 10-6)

      = 53.0 x 103

      = 53 KΩ

      可変抵抗器の値としては RL から RS を引いた値になります。
      今回の回路では50KΩを使用しました。


警報出力回路


警報検出回路の出力はリレーを動作させるほど長くはありません。警報出力回路では警報検出回路の出力をトリガにして一定時間出力を持続させます。
555タイマーを使用して約1秒間リレーを動作させるようにしています。

T = 1.1CR
= 1.1 x 10 x 10-6 x 100 x 103
= 1.1秒

タイマーの出力(動作時Hレベル)をトランジスタに入力し、リレーを駆動しています。リレーのコイルと並列に入れているダイオード(D5)はリレーを駆動するときに発生する電圧からトランジスタを保護する目的で入れています。

また、リレーが動作すると同時にLED(D4)を点灯させています。このLEDはケースに取り付けて外部から見えるようにしています。警報検出回路の距離を設定し易くするためです。

トランジスタのベースと接地間に入れているコンデンサ(C24)はタイマーがタイムアウトしたとき、リレーが復旧(非動作)するのを遅らせるために入れています。タイマーがタイムアウトした後、次のトリガ信号が入るまで最大70ミリ秒かかります。超音波の送信間隔が約70ミリ秒だからです。障害物を連続して検出している場合、タイマーの出力は1秒ごとに約70ミリ秒Lレベル状態になります。コンデンサ(C24)に蓄えた電荷により、タイマーの出力が短時間Lレベルになってもリレーを保持するようにしています。コンデンサの値はリレーの復旧電流によります。今回使用したリレーの場合、220μFで保持されています。



電源回路


今回の回路では各種の発振器を使用しています。それらの発振器の周波数が計測精度に関係します。使用する電源は安定している必要があります。回路はCMOSを使用した回路ですので、電源として+5Vでなくてもかまいません。内部電源電圧は3端子レギュレータで+9Vにしています。

入力電圧はリレー駆動電圧の関係で+12V前後の電圧を使用します。