目次電子回路工作素材集温度調整器


温度調整器 回路説明



以下では私が今回の回路を設計したときのポイントを記載します。

サーミスタの特性調査


今回使用したサーミスタはNEC製のD−53です。D−53はNTC(Negative Temperature Coefficient Thermistor)タイプのサーミスタで、温度が上昇すると抵抗値が減少する特性を持っています。特にこの品名のものを探したわけではなく、たまたま入手出来たので使用しました。詳細なデータが分からないので、まず、温度変化による抵抗値の変化を測定しました。熱源としては100Wのホーロ抵抗器を使っています。この抵抗器は安定化電源装置作成の際に負荷抵抗器として使用したもので、65Wの電力を加えると表面温度が150度以上になります。
抵抗値測定では150℃まで温度を上げて測定しましたが、通常は+100℃あるいは+120℃を使用上限温度としているサーミスタが多いです。連続して+150℃での使用は避けた方が無難かもしれません。
一般的にサーミスタの使用出来る温度は以下のように言われています。
短期間使用(1−24時間):150℃
長期間使用(1−12ヶ月):105℃
サーミスタにより、使用可能範囲は決められているので、詳細はデータを確認した方が良いです。

サーミスタを使用する場合に気を付けなければいけない点の一つに自己発熱があります。サーミスタに電流を流すと、熱が発生します。NTCタイプのサーミスタの場合、電流が多いと、発熱により抵抗値が減少し、さらに電流が増えて発熱するという悪循環をすることがあります。ですから、サーミスタに流す電流は極力少なくした方が良いわけです。
今回使用したサーミスタは25℃で約5KΩの抵抗値があります。この時、サーミスタに流れる電流は約0.55mA(12V/(16+5+1))で、消費電力は1.5mW((0.55mA)2 x 5)になります。この値であれば問題はありません。温度が上昇すると抵抗値が下がり、電流は増加します。けれども、16KΩの抵抗器が入っているので、サーミスタの抵抗値が下がるとサーミスタの消費電力は減少します。




電圧変換回路

左の図はサーミスタの抵抗値の変化を電圧の変化に変換する回路ですが、トランジスタを使用した増幅回路の基本形そのものです。ベース(B)に流れる電流が変化するとコレクタ(C)からエミッター(E)に流れる電流が変化します。変化する割合は電流増幅率(hFE=I/I)で表されます。このhFEはトランジスタの種類によって異なり、同じトランジスタでもさらにクラス分けされていることがあります。
今回、私が使用したトランジスタは2SC1815(Y)でデータシートではYクラスのhFEは120〜240となっています。これを見ても分かるようにhFEはトランジスタ毎に異なると言うことです。
今回の回路ではサーミスタの抵抗値(Rt)の変化範囲でコレクタ電圧(Vc)ができるだけ飽和せずに変化する必要があります。Rtの変化範囲を5kΩとして、R1の適正値を決めます。
R2は1kΩ(Iの安定化のためで、低いほど安定します。低すぎてはダメ。)
R3は2kΩ(TR1がON状態のときに6mA位流れればと考えました。)
以上の条件で計測したものが以下のグラフです。

今回の回路ではRtが1kΩ以下でもコレクタ電圧を飽和させずに使いたいのでR1は16kΩにしました。
特性の測定は一度バラックで組立、R1の値の目安を求めます。その後、最終的に回路を組んだ時に再度測定した方が関連する部品の特性も含めた調整が可能です。

電圧変換回路は増幅器そのものなので、ベースに何らかの信号が入るとコレクタ側に増幅された信号が現れます。外部からの不要な交流信号による影響を少なくするために各箇所にバイパス用にコンデンサを入れています。また、サーミスタと電圧変換回路と接続する線が長いと交流信号などが誘導され、変換回路が誤動作する可能性があります。そのため、サーミスタを接続する線にはシールド線を使用する必要があります。




電圧比較回路

サーミスタで検出した温度が設定温度になっているかどうかを検出するために電圧比較器(コンパレータ)を使用しています。サーミスタ電圧変換部からの電圧と温度設定電圧との比較し、差がある場合にはどちらが高いかにより、リレー駆動回路のON/OFFを行います。


コンパレータの動作はプラス端子の電圧がマイナス端子の電圧より高い場合には出力のトランジスタはOFF状態(Hレベル状態)、プラス端子の電圧がマイナス端子の電圧より低い場合には出力のトランジスタはON状態(Lレベル状態)になります。

今回の回路では電圧変換部からの電圧をコンパレータのマイナス端子に接続し、温度設定電圧をプラス端子に接続しています。プリント板のパターンの関係でそのようにしています。これは逆でもかまいませんが、コンパレータの出力が逆になります。


今回の接続の状態では電圧変換部からの電圧(マイナス端子)が高い(温度が低い)場合、コンパレータの出力はON状態になります。ですから、リレーは動作しません。(SとBが接続されている状態)
温度が上がり、電圧変換部からの電圧(マイナス端子)が温度設定電圧(プラス端子)より低くなると、コンパレータの出力はOFF状態になります。それにより、リレーは動作状態になります。(SとMが接続されている状態)


温度設定用の可変抵抗器の両端に付けている抵抗器は以下のような目的があります。

+12V側の抵抗器
    温度設定電圧を電圧変換部の最高出力電圧よりも小さくするための抵抗器です。

電圧変換部の出力電圧は最高でも電源電圧にはなりません。これはコンパレータの入力端子に電流が流れるため、電圧変換部のコレクタに接続している抵抗器で電圧降下が発生するためです。温度設定電圧を電源電圧まで上げてしまうと常に温度設定電圧の方が高くなり、温度調節ができません。リレーは常に動作状態になります。
使用する時に気を付ければ、特に抵抗器を付ける必要はありません。


接地側の抵抗器
    設定温度の上限を決める抵抗器です。

この抵抗器がない場合に温度設定を最高にすると、コンパレータのプラス端子は0Vになります。そのため、電圧変換部の電圧が0Vになるまでリレーが動作しないことになります。今回の回路では電圧変換部の出力は0Vにならないので、いつまで経ってもリレーは動作しないことになります。

最高温度が他の装置などで、ガードされている場合には特にこの抵抗器を付ける必要はありません。そうでない場合にはかならず、上限温度以上にならないように抵抗器を付ける必要があります。抵抗値は最高温度合わせて適切な値のものを使用する必要があります。




リレー制御回路


コンパレータの出力はオープンコレクタ(コレクタへの電源を外部から供給するタイプ)です。
そして、内蔵のトランジスタの最大許容損失電力は500mWになっています。ですから、小型のリレーを電源とコンパレータの出力の間に接続することにより、直接リレーを駆動することができます。
今回の回路ではそのような回路にはしていません。最初はバラックで上記のような回路にしたのですが、リレーの動作が不安定でした(動くべき時に動かないことがありました)のでトランジスタを使用した駆動回路にしています。
コンパレータの出力がON(設定温度以下を検出)の場合、駆動トランジスタのベースはほぼ接地電圧になるため、駆動トランジスタのベースには電流が流れず、トランジスタはOFF状態になります。リレーは動作しません。
コンパレータの出力がOFF(設定温度以上を検出)の場合、駆動トランジスタのベースにはR7およびR8を通して電流が流れ、トランジスタはON状態になります。リレーは動作します。

駆動トランジスタを使う場合と使わない場合とではリレーの動作状態は逆になります。