目次電子回路工作素材集電力制御器


電力制御器 動作説明


双方向サイリスタ ( トライアック(商品名):Triac )

ダイオードの特殊なものとしてサイリスタ(Thyristor)があります。
一口に言うと順方向に電流が流れるタイミングをコントロールできるダイオードです。
サイリスタにはアノードに相当する端子T2、カソードに相当する端子T1、それとゲートと呼ばれる端子があります。
通常のダイオードは順方向に電圧が加わると順方向の電流がすぐに流れ始めますが、サイリスタはゲートに電流が流れないと順方向の電流は流れません。ゲートにトリガ電流(パルス状)が流れるとサイリスタには順方向の電流が流れ始めます。一度、流れ始めるとゲートの電流が無くなってもサイリスタの順方向電流は流れ続けます。順方向電流が無くなると再びゲート機能が復活し、再度、サイリスタに順方向電圧が加わってもゲートにトリガ電流が流れるまで、順方向電流は流れません。
双方向サイリスタは交流で使用できるサイリスタです。交流のプラス電圧側、マイナス電圧側それぞれでゲート機能を働かせることができます。ですから、交流の電力をコントロールすることができます。



トリガ・ダイオード ( ダイアック(商品名):Diac )


トリガ・ダイオードは特殊な特性を持っています。通常のダイオードは順方向電圧が加わると順方向電流が流れますが、トリガ・ダイオードは順方向電圧が規定の電圧(ブレーク・オーバー電圧:VBO)になるまで順方向電流は流れません。また、トリガ・ダイオードは双方向のダイオードでプラスの電圧が加わったときでも、マイナスの電圧が加わったときでも、VBO以上の電圧が加わらないと電流は流れません。ダイオードに加わる電圧がVBOを越えるとダイオードは導通状態になり、ダイオードの両端の電圧は急激に下がります。
この特性は双方向サイリスタのゲートを制御するのに非常に都合が良い特性です。たぶん、双方向サイリスタを制御するために開発されたダイオードと思います。



双方向サイリスタによる電力制御

双方向サイリスタで電力制御(流れる電流の量の制御)をするためにはゲート回路にトリガ・ダイオードを使います。トリガ・ダイオードに流れる電流のタイミング(位相)を変化させることにより、交流電流の流れるタイミングを制御します。

位相制御回路
トリガ・タイミングを変化させる回路としては抵抗器とコンデンサを組み合わせた回路が使用されます。コンデンサに交流電圧が加わった場合、コンデンサに流れる電流の位相は90度進みます。ですから、抵抗器の両端の電圧は入力の交流電圧に対して90度進んだ電圧になります。そのため、コンデンサの両端の電圧は入力の交流電圧に対して90度遅れます。


抵抗値(R)が大きい場合には Vc の遅れは90度ですが、抵抗値(R)が小さくなると遅れは少なくなります。




抵抗値(R) = 小

抵抗値(R) = 中

抵抗値(R) = 大

抵抗値(R)が小さい場合にはコンデンサに急速に電荷が蓄えられ、コンデンサの電圧上昇も早くなります。このため、トリガ・ダイオードのトリガ電圧(VBO)に達する時間も短くなり、入力交流電圧の早い時期に双方向サイリスタがON状態になります。抵抗値が小さい場合にはコンデンサの電圧(Vc)の遅れは90度以下になります。一度双方向サイリスタがON状態になると、ゲートの電流の有無に関係なく半サイクル分は電流が流れ続けます。双方向サイリスタがON状態になると、CTの電圧は降下し(後述)、トリガ・ダイオードに流れる電流は停止します。ですから、双方向サイリスタのゲートには双方向サイリスタがONになるのに必要な電流が一瞬流れるだけです。
抵抗値が大きくなるとコンデンサに蓄えられる電荷の速度は遅くなります。そのため、コンデンサの両端の電圧上昇にも時間がかかり、入力交流電圧の遅い時期に双方向サイリスタがON状態になります。双方向サイリスタのONタイミングが遅くなると、電流が流れる時間は短くなり、負荷に加わる電力は少なくなります。
抵抗値をさらに大きくすると、コンデンサの両端の電圧は小さくなり、トリガ・ダイオードのトリガ電圧に達しなくなります。すると、双方向サイリスタのゲートにはトリガ電流は流れず、負荷への電力は供給されなくなります。(スイッチOFFと同じ)



ヒステリシス防止回路
タイミング用のコンデンサ(CT)に溜まった電荷は双方向サイリスタ(TR)がONになった後、出来るだけ速く放電させる必要があります。そうしないと、CTに溜まった電荷が次のサイクルのトリガ・タイミングに影響を与えてしまいます。以下の説明では入力電圧がプラス状態からマイナス状態に移行する場合で説明します。

TRがON状態(導通状態)になるとTRのT2とT1間の電圧は1.5V位に低下します。CTの電荷はR1が小さい場合にはR1およびTRを通して放電されます。R1が大きい場合にはD1、R2およびTRを通して流れ、CTの両端の電圧は下がります。
トリガ・タイミングが早いとき(双方向サイリスタの導通時間が長いとき)にはこれで良いのですが、トリガ・タイミングが遅いとき(双方向サイリスタの導通時間が短いとき) にはこれだけでは十分にCTの電荷を放電できません。

そこで、入力電圧が逆方向になったときにD1およびD2によりCTの放電を急速に行います。入力電圧がマイナスになるとD2がON状態になります。A点の電圧がB点より高い場合、D1およびD2は両方ともON状態になります。ダイオードは導通状態の場合、電流を逆方向にも流せます。ですから、CTの電荷はD1およびD2を通して放電されます。ダイオードの順方向電圧は約1V以下になるので、CTの両端の電圧も直ぐに1V位まで下がります。次の半サイクル(マイナス側)ではCTには逆の極性の電荷が溜まり始め、A点はB点より低くなり、D1はOFF状態になります。これにより、CTに電荷の溜まる速さはR1のみによって決まります。

以後、CTの両端の電圧がトリガ・ダイオードのブレーク・オーバー電圧(VBO)になるまでCTには電荷が蓄えられます。トリガ・ダイオードの電圧がVBOになるとTRのゲートに電流が流れ、TRはON状態になります。

以降の動作は先の説明と同様です。




ノイズフィルタ回路


今回の回路では使用していませんが、双方向サイリスタがON/OFFするときに出るノイズが負荷に使用する機器に影響を与える場合、フィルタを付けることにより軽減することができます。
また、負荷にコイルなどを用いた装置(モータなど)で高圧が発生する場合があります。この回路はその高圧から双方向サイリスタを保護する役目もします。

TNRはバリスタと呼ばれるもので、半導体の一種です。バリスタはバリスタ電圧より高い電圧が加わると抵抗値が下がり、その電圧をバイパスさせて双方向サイリスタを保護します。
AC100Vではバリスタ電圧が270V位のものを使用します。
バリスタを負荷と並列に接続することも、負荷からの高電圧から双方向サイリスタを保護するのに効果があります。
バリスタは性能が劣化すると短絡することがあるので、バリスタを負荷と並列に接続する場合には回路にフューズを入れておく必要があります。