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インバータICについて
インバータとは入力が一つ、出力が一つで入力の状態(ハイレベルかローレベル)と逆の状態が出力される回路です。
このような論理IC(ロジックIC)ではTTLという言葉が使われます。TTLとはTransistor Transistor Logicの略で、基本的には0Vと+5Vの電圧で状態を表します。(CMOSでは若干電圧が違います)
0Vはローレベル(Lまたは0で表すこともあります)と言い、+5Vはハイレベル(Hまたは1で表すこともあります)と言います。
入力が0Vから+5Vまで徐々に変化した場合、出力はそれに伴った変化はしません。
入力電圧がある電圧を越えた場合、出力が急激に反対の状態に変化をします。この電圧のことをスレッショルド電圧(Threshold Input Voltage)と言います。スレシホールド電圧と言っていることもあります。記号としてVTと書きます。
インバータの入力端子が開放状態の場合、入力端子の電圧はスレッショルド電圧以上になっています。ですから、この状態でのインバータ出力はL状態となります。
スレッショルド電圧はICの種類によって若干違います。
以下の表は手持ちのものを測定したものです。規格表に記載しているものではありません。
VCC=+5V
スレッショルド電圧 | 7404 | 74LS04 |
74HC04
(参考) |
VT(V) | 0.7 〜 1.4 | 1.0 〜 1.4 | 2.5 〜 2.6 |
低い方の電圧は出力電圧が下がり始める時の入力電圧、
高い方の電圧は出力電圧が下がりきった時の入力電圧です。 |
通常、デジタルロジック回路では0V(L)か+5V(H)を扱いますので、途中の電圧であるスレッショルド電圧を意識することはあまりありません。でも今回のマルチバイブレータのような場合、入力がアナログ的(連続的)に変化するのでスレッショルド電圧が影響してきます。
等価回路
等価回路とはICの機能をトランジスタ、ダイオード、抵抗、コンデンサなどの電子部品で組んだ場合の回路構成を表しています。実際にそのような素子が組み込まれているわけではないのですが、同等な機能を持っていると言うことです。
同じようなインバータICでも種類によって等価回路が異なります。
以下に規格表に載っている等価回路を参考として示します。他のICは規格表を見てください。最近の多機能ICは等価回路では表すことは出来ず、機能ブロックとして四角で表していることがほとんどです。
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7404 | 74LS04 |
絶対定格
項目 | 7404 | 74LS04 |
74HC04
(参考) |
供給電圧(V)
Vcc | 7 | 7 | 7 |
入力電圧(V) | 5.5 | 5.5 | Vcc + 1.5 |
動作温度(℃)
(パッケージ表面) | 0 〜 70 | 0 〜 70 | -40 〜 +85 |
この定格値を少しでも越えるとICは壊れてしまいます。 |
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入出力電流特性
項目 | 7404 | 74LS04 |
74HC04
(参考) |
入力電流特性 | H→ | 40uA | 20uA | - |
L← | 1.6mA | 0.4mA | - |
出力電流特性 | H→ | 0.4mA | 0.4mA | 4mA |
L← | 16mA | 8mA | 4mA |
入力電流特性で”H→”は入力をハイレベルにした時に流れ込む電流値です。
入力電流特性で”L←”は入力をローレベルにした時に流れ出す電流値です。
出力電流特性で”H→”は出力がハイレベルになった時に流し出せるリミット電流値です。
出力電流特性で”L←”は出力がローレベルになった時に流し込めるリミット電流値です。
ですから、7404の出力を他の7404の入力と接続する場合、10個まで接続できる
ことになります。他の種類のICと接続する場合にはICにより異なります。
74LS04の場合は20個まで接続できることになります。
入出力電流特性の値を越えても多少であれば壊れはしません。出力を短絡したりとか極端なことを
行うと壊れます。ただ、規格値を越えた場合の動作は保証されません。
74HC04はCMOS(Complementary MOS)で作られており、入力電流はほとんど流れません。
以下の回路動作で説明しますが、今回の回路では入力電流が多少流れる必要があるので、
74HC04は今回の回路では使用できません。 |
マルチバイブレータ回路の動作説明
本題の回路動作の説明です。
まず、インバータAの入力(9番ピン)をローレベルと仮定します。この時、インバータAの出力(8番ピン)はハイレベルになります。
C5に電荷が溜まっていないとすると、インバータAの出力→C5→R2→D2→インバータBの出力と電流が流れます。
最初はインバータBの状態は不定ですが、完全にはハイレベル状態ではないので、上記の電流が流れます。
C5に電荷が溜まり始める時にはC5は短絡状態と同じように見えます。ですから、インバータBの入力はハイレベル状態になります。これによりインバータBの出力は完全にローレベルとなり、上記の電流ルートが完全に形成されることになります。インバータAの入力にも電流が流れますが、微量(上記表のように40uA)ですので、ほとんどはR2を通るルートで電流が流れます。
C5に電荷が溜まってくると、電流が減ってきます。それに伴ってインバータBの入力電圧も下がってインバータBのスレッショルド電圧に近づきます。インバータBの出力はローレベル(ほとんど0V)ですので、R2、D2を通してさらに電流は流れ続け、インバータBの入力電圧はスレッショルド電圧(VT)になります。
するとインバータBの出力は反転してハイレベル状態になります。
インバータBの出力がハイレベルになると、D2のカソード側の電圧が高くなり、R2を通る電流は停止します。
もし、D2がないとインバータBの出力がR2を通してインバータBの入力に伝わってしまい、再びインバータBの入力がハイレベルとなり、出力がローレベルとなるというように繰り返してしまい、インバータBは発振動作をしてしまいます。
インバータBのハイレベル出力はC6を通してインバータAの入力をハイレベル状態にします。この時電流はインバータBの出力→C6→R1→D1→インバータAの出力と流れます。
インバータAの入力がハイレベル状態になると、インバータAの出力はローレベルになります。C5には既にインバータAの出力側をプラスとした電荷が溜まっており、その状態でインバータAの出力がローレベル(0V)になったため、インバータBの入力側の電圧はマイナス電位からスタートすることになります。C5の電荷の放電はインバータBの入力→C5→インバータAの出力と電流が流れることにより行われます。
C6に電荷が溜まってくると、電流が減り、インバータAの入力電圧が下がります。インバータAの入力電圧がインバータAのスレッショルド電圧になると、インバータAの出力はハイレベルとなります。
これで、説明の最初の状態に戻りました。
以後、この動作を繰り返します。
ここで疑問があるかも知れません。
最初、インバータAの入力をローレベルとしました。
この回路の電源を投入した時点ではインバータの状態は定まっていません。ただ、インバータの特性は全く同じではありません。どちらかのインバータの出力が先にハイレベルとなり、それにより、状態が確定します。理想的なインバータ回路があった場合、繰り返し動作をしないことも考えられますが、実際にはそうはならず、繰り返し動作をします。
C5、C6の放電。
インバータが反転した後、C5またはC6は放電(電荷を逃がす)をする必要があります。
この放電にはインバータの入力から流れ出る電流が必要になります。
この放電が行えないと、次の周期で既に電荷が溜まっている状態からスタートするので、すぐにスレッショルド電圧になります。すなわち、繰り返しの周期が短くなるか、または、繰り返しが行われないことになります。
周期を長くしようとしてコンデンサの値を大きくしても放電が十分行われずに周期が長くならないこともあります。
また、インバータとして74HC04を使った場合、入力電流がほとんど流れないので、放電が行われず正常な動作をしません。
実際、74HC04で今回作成した回路を動作させてみました。最初は一見正常な動作をしましたが、しばらくすると両方のLEDが同時に点灯したり、正常な動作をしませんでした。
繰り返し周期の計算
インバータが反転する周期はコンデンサ(C)、抵抗(R)およびスレッショルド電圧(VT)によって決まります。
厳密にはさらにCの放電状況によっても変わります。
インバータAの場合はC6とR1が関係し、インバータBの場合はC5とR2が関係します。
コンデンサ(C)と抵抗器(R)が直列に接続された回路に電圧(V)が加わった場合の電流変化は以下の式で求めることができます。
i = (V/R)e-(t/CR)
i | : | 時間と共に変化する電流 |
V | : | 印加電圧 |
R | : | 抵抗値 |
e | : | 自然対数の底(2.71828) |
t | : | 充電開始後の経過時間 |
CR | : | 時定数(C×R) |
抵抗器(R)の両端に加わる電圧の変化は
iR = Ve-(t/CR)
この値がVTと等しくなる時間がインバータの反転する時間になります。
VT = Ve-(t/CR)
時間(t)は以下のようになります。
t = −CR ln(VT/V)
実際の値を当てはめてみます。
対数の値は対数表を見て下さい。
C | = | 470μF = 470×10−6F |
R | = | 1KΩ = 1×103Ω |
V | = | 4.5V |
VT | = | 1.4V(出力電圧が下がりきった時の入力電圧) |
|
|
|
t | = | −(470×10−6)×(1×103)×ln(1.4÷4.5) |
| = | −(470×10−3)×ln(0.31) |
| = | −(470×10−3)×(−1.17) |
| = | 550×10−3 |
| = | 0.550秒 |
VT =1.0Vとした場合(出力電圧が下がり始める時の入力電圧)
他のパラメータは上記条件と同じ。
t | = | −(470×10−6)×(1×103)×ln(1.0÷4.5) |
| = | −(470×10−3)×ln(0.22) |
| = | −(470×10−3)×(−1.51) |
| = | 710×10−3 |
| = | 0.710秒 |
実際の回路の周期を計測すると、赤のLED(緑でも同じ)が一分間に45回点灯します。
tは半周期の時間ですので、60秒÷90で0.667秒でした。
周期が計算値と合わない場合の主な原因として以下のことが考えられます。
コンデンサの
放電 | コンデンサの放電が行われないと、スレッショルド電圧に達するまでの時間が短くなります。 |
V |
インバータ出力のハイレベル電圧が影響します。
今回の回路ではトランジスタ駆動のために定格より大きな電流を流しています。
測定では約4.5Vになっています。
この電圧が低くなると、時間は短くなります。 |
VT |
ICの種類によって違ってきます。
この電圧が低いほど時間は長くなります。 |
ダイオードの
電圧降下 |
ダイオードの電圧降下が影響します。
ダイオードに流れる電流により、ダイオードで電圧降下が発生します。
この値が大きいほど、周期は短くなります。 |