目次電子回路工作素材集スッチング・レギュレータ(2)インバーティング・コンバータ


インバーティング・コンバータ
回路説明
(MC34063A)



 インバーティング・コンバータの動作


左の図はインバーティング・コンバータの基本回路です。ステップダウンとコイルおよびダイオードの位置が異なります。
入力電力はレギュレータのスイッチング動作により出力回路に伝えられます。出力回路のコイルはTRがONの時に入力電力を蓄える働きと、TRがOFFの時に出力に蓄えた電気エネルギーを放出し、負荷に一定の電力を出力する働きをします。また、出力回路のコンデンサはコイルと同じように負荷への電力供給を平準化する役割をします。マイナスの電位はコイルに蓄えられた電気エネルギーを負荷に放出するときに発生します。





TRがONの時、コイル(L1)に入力電力が供給されます。この時、コイル(L1)には電気エネルギーが蓄えられます。この状態ではコイルの出力側がプラス、接地側がマイナスの電位になります。

TRがOFFになると、コイルは電流を流し続けようとして蓄えた電気エネルギーを放出します。(レンツの法則)この状態ではコイルの出力側がマイナス、接地側がプラスの電位になります。電流を流し続けようとするのでこのような電位になります。コイルに蓄えられた電気エネルギーは負荷およびダイオードを通して流れます。ダイオードが無いとコイルに蓄えられた電気エネルギーは流れることができません。この時、コンデンサにも電気エネルギーが供給され、蓄えられます。

再び、TRがONになるとTRをとおして入力電力がコイル(L1)に加わります。TRがONになった時にダイオードでの逆流が阻止されないとプラスの入力電力が負荷に供給されてしまい、コイルにより発生させたマイナスの電力がうち消されてしまします。ですから、ここに使用するダイオードは逆回復時間の短いショットキー・バリア・ダイオードまたはファースト・リカバリ・ダイオードを使用する必要があります。

インバーティング・コンバータの動作はステップダウン・コンバータの動作と似ています。スイッチング動作により出力で必要とする電力に見合う電力を入力から取り込む動作をするのですが、コイルとダイオードの挿入位置がステップダウンの場合と異なっています。




 発振周波数

左の図はデータシートに記載されているタイミング・コンデンサとスイッチング時間の関係を表しているチャートです。
今回作成した回路では1500pFのコンデンサを使用しました。この場合、ton = 40μS、toff = 5μSになります。ですから、周波数としては f = 1/(ton+toff) = 22kHz になります。このコンデンサの値はデータシートのサンプル回路のものを使用しています。高い周波数の方がコイル等が小さくできると思いますが、あまり高速でスイッチングするとスイッチング・トランジスタおよびダイオードの負荷損失が大きくなるのでデータシートの値を使用しました。





 コイルおよびコンデンサ

メインコイル(L1)はTRがOFFになった場合に負荷に継続的に電流を流すために設けられていてインダクタンス値が大きい方が安定した出力電力を得ることができます。ただし、インダクタンス値が大きいほどTRがOFFになった場合にコイル両端に現れる逆起電力が大きくなり、高い電圧が発生します。この電圧は出力側のコンデンサで平準化されますが、必要以上に大きいコイルを使用するとコンデンサでも平準化できず、脈流として出力電圧に現れてしまいます。
データシートに記載されているインダクタンス値を求める以下の式を私は理解出来ませんでしたので、サンプル回路の値に近いものを使用しました。

L(min) = ((Vin(min) - Vsat) / Ipk(switch) ) x ton(max)

コンデンサの値は大きい方が有効です。当然、容量が大きなコンデンサは形状も大きいし、初期流入電流も多いので、実装状況を考慮する必要があります。このコンデンサには大きな充放電電流が流れますので、コンデンサとしては等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)の小さいものを使用します。ESRを小さくする方法としてコンデンサを並列に接続することも効果があります。




 過電流検出

MC34063Aは入力電流を検出して過電流によりレギュレータが破壊することを防ぐことができます。
電流検出は入力回路に直列に入れられている抵抗の電圧降下を検出させます。レギュレータではVccから過電流検出端子の電圧が0.3V以上下がると過電流と判断し、出力への電力供給を制限するようになっています。今回の回路では0.22Ωの抵抗器を使用したので、入力電流制限値としては 0.3V / 0.22Ω = 1.36A になります。
プリント板のパターン図でR1の出力側とレギュレータの7番ピンの接続を独立したパターンとしています。これはR1に加わる電圧をより正確に検出するためです。プリント板の銅板にも小さいですが抵抗値があります。電流が少ない場合にはプリント板での電圧降下は無視出来るのですが、過電流検出ではミリVの電圧を検出するため電流が大きい場合にはプリント板の電圧降下は無視出来なくなります。R1の出力側リード線の接続部分からパターンを出すことにより、そのパターンにはレギュレータの過電流検出回路に流れる電流のみとし、プリント配線に流れる大電流による電圧降下の影響を受けないようにしています。




 出力電圧調整


MC34063Aでは1.25Vの基準電圧と出力電圧を比較し、出力電圧が一定になるように制御しています。
インバーティングの場合、レギュレータの基準電圧接地端子はマイナス出力側に接続します。ですから、出力電圧調整用の可変抵抗器の配置はステップダウンの場合と異なり、接地側に接続します。
出力電圧は以下の式で求めることができます。

Vout = ((R2+VR1+R3)/R2)x1.25

今回の回路ではR2 = 1.5kΩ、R3 = 1kΩ、VR1 = 10kΩですので、VR1を変化させることにより出力電圧は以下のように変化させることができます。
VR1 = Vout = 2.1V
VR1 = 10kΩVout = 10.4V

厳密にはレギュレータの電圧検出回路に流れる電流により検出回路に加わる電圧は変わりますが、実際には電圧検出回路に流れる電流は小さい(1μA以下)なので、無視してもかまいません。




 二次フィルタ

スイッチング・レギュレータはその動作の関係で、出力にはスイッチング周波数の脈流が現れます。出力に接続するコンデンサ(C2)の値を大きくすることで脈流を少なくすることもできますが、今回の回路では出力にもう一つ平滑回路(二次フィルタ)を設けて脈流分を少なくしています。
データシートのサンプル回路ではコイルとして1μHのものを使用していますが、今回作成した回路では25μHのものを使用しました。1μH,2Aのコイルが入手出来なかったためです。コイルのインダクタンス値が大きいほどフィルタ効果は大きいのですが、効率が若干悪くなります。効率を上げるためにトロイダルコイルを自作してもできると思います。