目次→電子回路工作素材集→スッチング・レギュレータ(2)→ステップアップ・コンバータ
ステップアップ・コンバータの動作 左の回路がステップアップ・コンバータの基本回路です。 ステップアップ・コンバータの動作は膨らました風船の栓を急に開けた動作と似ています。コイル(風船)に溜まった電気エネルギー(空気)をTRをOFF(栓を開る)で勢い良く出力側に放出して電圧を上昇させます。 最初にTRがON状態になるとコイルにエネルギーが蓄えられます。 このとき、コイルの入力側はプラス、出力側はマイナスの電位になります。 次にTRがOFF状態になるとコイルは電流を流し続けようとして(レンツの法則)、蓄えたエネルギーを放出します。この時コイルの出力側がプラス、入力側がマイナスになります。TRはOFFなので電流はダイオード(D)を通してコンデンサ(C)および負荷に流れます。 再び、TRがON状態になるとコイルには、また、エネルギーが蓄えられます。負荷にはコンデンサに蓄えられたエネルギーにより電流が流れます。 コンデンサに蓄えられたエネルギーはダイオード(D)のためにTRには流れず、負荷にしか流れません。 この方式の場合、コイルに蓄えるエネルギーの方が負荷で消費するエネルギーより大きくないと電圧を上げることはできません。コイルに蓄えられたエネルギーが大きければコンデンサーに蓄えられるエネルギーはどんどん増え、電圧が上昇します。レギュレータは出力電圧を監視していて、規定の電圧になるとスイッチング動作を止め、出力電圧が一定になるように制御します。 発振周波数 左の図はデータシートに記載されているタイミング・コンデンサとスイッチング時間の関係を表しているチャートです。 今回作成した回路では1500pFのコンデンサを使用しました。この場合、ton = 40μS、toff = 5μSになります。ですから、周波数としては f = 1/(ton+toff) = 22kHz になります。このコンデンサの値はデータシートのサンプル回路のものを使用しています。もう少し高い周波数の方がコイル等が小さくできると思いますが、ステップアップ・コンバータの場合、コイルに蓄えたエネルギーをスイッチング動作で出力に伝えます。あまり高速でスイッチングするとスイッチング・トランジスタおよびダイオードの負荷損失が大きくなるのでデータシートの値を使用しました。 コイルおよびコンデンサ メインコイル(L1)のインダクタンス値は直接レギュレータの性能に係わります。大きい方が沢山のエネルギーを蓄えて出力に伝達することができます。ただし、大きいほどTRがOFFになった場合にコイル両端に現れる逆起電力が大きくなり、高い電圧が発生します。ですから、必要以上に大きいコイルを使用するとコイルに発生する起電力でTR(VCEmax=40V)が破壊してしまいます。 データシートに記載されているインダクタンス値を求める以下の式を私は理解出来ませんでしたので、サンプル回路の値に近いものを使用しました。 L(min) = ((Vin(min) - Vsat) / Ipk(switch) ) x ton(max)
コンデンサの値は大きい方が有効です。当然、容量が大きなコンデンサは形状も大きいし、初期流入電流も多いので、実装状況を考慮する必要があります。このコンデンサには大きな充放電電流が流れますので、コンデンサとしては等価直列抵抗(ESR:Equivalent Series Resistance)の小さいものを使用します。ESRを小さくする方法としてコンデンサを並列に接続することも効果があります。 過電流検出 MC34063Aは入力電流を検出して過電流によりレギュレータが破壊することを防ぐことができます。 電流検出は入力回路に直列に入れられている抵抗の電圧降下を検出させます。レギュレータではVccから過電流検出端子の電圧が0.3V以上下がると過電流と判断し、出力への電力供給を制限するようになっています。今回の回路では0.22Ωの抵抗器を使用したので、入力電流制限値としては 0.3V / 0.22Ω = 1.36A になります。 プリント板のパターン図でR1の出力側とレギュレータの7番ピンの接続を独立したパターンとしています。これはR1に加わる電圧をより正確に検出するためです。プリント板の銅板にも小さいですが抵抗値があります。電流が少ない場合にはプリント板での電圧降下は無視出来るのですが、過電流検出ではミリVの電圧を検出するため電流が大きい場合にはプリント板の電圧降下は無視出来なくなります。R1の出力側リード線の接続部分からパターンを出すことにより、そのパターンにはレギュレータの過電流検出回路に流れる電流のみとし、プリント配線に流れる大電流による電圧降下の影響を受けないようにしています。 出力電圧調整 MC34063Aでは1.25Vの基準電圧と出力電圧を比較し、出力電圧が一定になるように制御しています。 出力電圧は以下の式で求めることができます。
Vout = ((R3+VR1+R4)/R4)x1.25
今回の回路ではR3 = 33kΩ、R4 = 3.3kΩ、VR1 = 50kΩですので、VR1を変化させることにより出力電圧は以下のように変化させることができます。
二次フィルタ スイッチング・レギュレータはその動作の関係で、出力にはスイッチング周波数の脈流が現れます。出力に接続するコンデンサ(C2)の値を大きくすることで脈流を少なくすることもできますが、今回の回路では出力にもう一つ平滑回路(二次フィルタ)を設けて脈流分を少なくしています。 データシートのサンプル回路ではコイルとして1μHのものを使用していますが、今回作成した回路では25μHのものを使用しました。1μH,2Aのコイルが入手出来なかったためです。コイルのインダクタンス値が大きいほどフィルタ効果は大きいのですが、効率が若干悪くなります。効率を上げるためにトロイダルコイルを自作してもできると思います。 |