目次事例集ダンシング・ライト制御回路


電流帰還バイアスタイプ
トランジスタ増幅器の回路設計




基本回路

電流帰還バイアスタイプの増幅器とはトランジスタのエミッタと接地の間に抵抗器を入れている増幅器です。この抵抗器があるためコレクタ電流が増えるとエミッタ電圧が上がり、ベース電流が減少するという動作をします。エミッタ電流の大きさにより入力のベース電流(バイアス電流)を制御するために電流帰還バイアスタイプと言われています。
通常の電流帰還タイプの増幅器ではエミッタ抵抗器にバイパスコンデンサを並列に接続して交流信号の増幅率向上を図ったり、ベースと接地間に抵抗器(ブリーダ抵抗器:電流を流し続けるための抵抗器)を入れてhFEのバラツキの影響を少なくしたりしますが、今回の回路では部品を少なくするために省略しています。それらが無くても大きな影響はありません。
    増幅率(G)
      増幅率とは入力信号の電圧(Vi)と出力電圧(Vo)の比です。

      詳細の計算は省略しますが、ほぼコレクタ抵抗(Rc)とエミッタ抵抗(Re)の比になります。
      入力と出力の位相が180度ずれるので、G=−(Rc/Re)と表す場合もあります。
      入力電圧が上がると、出力電圧が下がるからです。

    各抵抗値の計算
      式を見やすくするために Rd=Rc+Re とします。

      コレクタ抵抗値の計算
        Rc=G*Re=G*(Rd−Rc)=G*Rd−G*Rc
        Rc+G*Rc=G*Rd
        Rc(1+G)=G*Rd


      エミッタ抵抗値の計算
        Re=Rc/G=(Rd−Re)/G
        G*Re=Rd−Re
        G*Re+Re=Rd
        Re(G+1)=Rd


      ベース抵抗値の計算

        エミッタに流れる電流はIcとIbの合計値ですが、IbはIcに比べると非常に小さい(1/hFE)ので上記の計算では無視しています。




トランジスタ増幅器の動作


左の図はトランジスタの特性を表しているものです。
ベース電流(Ib)が一定の場合コレクタとエミッタ間の電圧(VCE)が変化してもコレクタ電流(Ic)はあまり変化しません。
しかし、ベース電流が変化するとコレクタ電流が変化することが分かります。




左の図の赤い線は負荷線と呼ばれるものでベース電流が変化した場合、コレクタとエミッタ間の電圧(VCE)とコレクタ電流(Ic)はこの線に沿って変化します。
コレクタ電流(Ic)の最大値はVCEが0Vの時で、電源電圧(Vcc)をコレクタ抵抗器(Rc)とエミッタ抵抗器(Re)の合計値(Rd)で割った値になります。(トランジスタが完全にON(飽和状態)の場合です)
コレクタ−エミッタ間の電圧(VCE)の最大値は電源電圧(Vcc)そのものです。(トランジスタが完全にOFFの場合です)
これらの間を結んだ線が負荷線です。
図の負荷線は直流の場合の負荷線で交流信号に対する負荷線は交流に対する抵抗値(インピーダンス)が関係しますので、傾きが若干異なります。
交流の負荷線は専門書を見て下さい。




トランジスタ増幅器は無信号時のベース電流(バイアス電流)によりA級増幅、B級増幅、C級増幅があります。
A級増幅は通常の増幅器で入力信号と同じ波形の信号を増幅する増幅器です。バイアスの動作中心点は負荷線の中心にします。コレクタ−エミッタ間の電圧(VCE)は電源電圧(Vcc)の約1/2にします。
B級増幅はプッシュプル増幅器に使われる方法で、信号の半分を増幅させる方法です。通常、NPNタイプのトランジスタとPNPタイプのトランジスタを組み合わせて半分ずつの増幅をします。A級増幅より大きな振幅の増幅ができます。
C級増幅はベース電流のバイアス点をB点よりもマイナス側にします。この増幅方法は高周波の増幅などに使用します。出力信号に歪みが生じ高調波を増幅することもできます。




A級増幅器の動作


A級増幅器は負荷線の中心に無信号時の動作点があります。ですから、入力信号のプラス側とマイナス側の両方の電圧変化を増幅することができます。
VCEの小さい部分ではベース電流とVCEは比例しません。ですから、大きな入力信号の場合には出力に歪みが発生します。
左図では入力信号より出力信号が小さく見えますが、入力のベース電流はμアンペアのオーダーです。




B級増幅器の動作


B級増幅器は無負荷時の動作点はコレクタ電流(Ic)が流れない状態の近くに設定します。ですから、入力信号の半分だけが増幅されます。
B級増幅を1つのトランジスタで行うことはなく、2つのトランジスタを組み合わせて使用します。
NPNトランジスタとPNPトランジスタは直流の特性が逆ですので、これを組み合わせると入力信号の半分ずつを増幅することができます。プッシュ(押す)プル(引く)増幅器としてこのタイプの増幅器が使用されます。




C級増幅器の動作


C級増幅器の動作点は負荷線上にはありません。
入力信号の一部が増幅されます。
ですから、音響などの増幅には使用されません。
歪み(元の信号と異なる)のために高調波成分が含まれ高周波の逓倍回路などに使用される増幅器です。





トランジスタ増幅器の設計

今回使用した増幅器の各抵抗器の値を計算した結果を以下に示します。
今回使用したトランジスタのhFE(直流電流増幅率)は115(実測値)でした。
通常はもう少し大きな値で、180位あります。今回は増幅器の増幅率を20倍としましたので、hFEの小さいものを選びました。hFEが大きいとベースに入れる抵抗値が大きくなってしまうので、小さいものにしました。
    設計条件
      電源電圧(Vcc)=12V
      コレクタ電流(Ic)=1mA
      増幅率(G)=20
      直流電流増幅率(hFE)=115

    Rdの計算
      Rd=(Vcc/Ic)*(1/2) 負荷線の中央を動作点にするため

      =12/(1mA*2)

      =6KΩ


    Reの計算
      Re=Rd/(G+1)=Rd/21

      =(6 x 103Ω)/21

      =286Ω  実際の回路では220Ωを使用


    Rcの計算
      Rc=(Rd*G)/(1+G))=20Rd/21

      =(20 x 6 x 103Ω)/21

      =5714Ω  実際の回路では5.6KΩを使用

      Re+Rc=Rdですが、実際の回路で使用した抵抗値は計算値と異なりますので、増幅率は計算値と多少異なります。問題はありません。

    Rbの計算
      Rb=(Vcc−(Ic*Re)−VBE)/(Ic/hFE)

      =(12−(1mA x 220Ω)−0.7)/(1mA/115)

      =(12−0.22−0.7) x 115 x 10

      =1,274 x 10

      =1.274MΩ  実際の回路では1MΩと220KΩを使用

実際に上記の抵抗値を使用した場合のコレクタ−接地間の電圧は6.15Vでした。